ストレス反応概論

THE JAPANESE PSYCHOLOGICAL ASSOCIATION  CERTIFIED PSYCHOLOGIST

ストレス反応概論
さまざまなストレス反応と対処法【慢性腰痛・パニック障害に対するアプローチ】

21世紀は脳の時代,心の時代であると言われて10年余りが経過し,心身を統一的に理解するさまざまな取り組みが進んでいます。近代における心身問題は,身体と心を分けて考えるデカルトの考えから始まり,これまでは身体と心を統一的に理解することの難しさゆえに生理学と心理学の分野において別々に扱われてきました。しかし現代においては次第に身体と心を統一的に捉えことの可能性が明らかになり,生命の本質を「情報の連続体」という概念で捉える傾向にあります。

「こころ」と「からだ」の問題は脳を通じて互いに密接な係わりがあり、ストレスによる心身症などの発症はそのことを典型的に示しています。
心身症の定義…身体疾患の中で,その発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し,器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし神経症やうつ病などの精神障害に伴う身体症状は除外する(1991 日本心身医学会)。すなわち,心身症は独立した疾患単位ではなく「病態名」であり,主にどの領域に病状が出現するかによって分類される。心身症の器質的病態を呈しているものとしては消化性潰瘍や潰瘍性大腸炎などであり,機能的病態としては偏頭痛や過敏性腸症候群などがあげられる。社会適応面から見ると,心身症の方々の特徴として真面目・仕事中毒・頑張り屋・頼まれると嫌といえない「過剰反応」の傾向が強く見られる。
心身相関の定義…心と身体が互いに密接な関係にあって,心の動き(情動)は何らかの身体的変化を引き起こし,また逆に,身体的変化(痛みなど)は何らかの心理的変化(心理的反応)を引き起こす現象をいう。また,心身交互作用という用語もあり,これは心身症の持続,増悪のメカニズムの一つとしてあげられている。たまたま心身の状態がよくない時に出現し,特別の条件が加わらなければ消失していくはずの身体症状(たとえば頭痛や肩こり),あるいはそれほどひどくなることもなく経過するはずの身体症状にとらわれて,注意の集中がおこり,その身体部位の感覚が鋭敏となり,機能も亢進し,その結果,その身体症状をより強く感じてさらにとらわれ,注意の集中がおこるという悪循環が形成され,身体症状の持続,増悪がみられる。
 心身相関のメカニズムとしては,内的・外的刺激によって大脳辺縁系で引き起こされた欲求や情動が大脳新皮質の働きにより適切に処理されないと,それより下位の視床下部に影響が及び,自律神経系および内分泌系に変調をきたし,さまざまな身体症状が出現するという過程や条件づけにより出現するというメカニズムが考えられている。そして一般に心身相関の把握は,生活史と症状の時間的な関連性が認められること,ストレス負荷によって症状を誘発できること,治療経過のなかで医師・患者関係のあり方や対人関係の障害によって病状の変化が認められること,および心身医学的な治療によって症状の改善がみられることなどに基づいて判断される。また,最近は精神神経内分泌免疫学(psycho-neuro-endocrino-immunology)の急速な進歩により多くの知見が得られている。
心身症に対するアプローチ…ストレスや心身相関,さらに患者の身体面(bio)だけでなく心理面(psycho),社会面(socio)をも含めて総合的,統合的にみていこうとする全人的な見解が有効であろう。
 現代の複雑な社会生活のなかで生ずるさまざまなストレスは心身症,神経症,うつ病(気分障害)や問題行動などいろいろな心身の障害を生み,また「心理的因子は神経症や心身症に限らず,すべての疾患の発病や経過の原因としてではなく,一つの関与因子として,多かれ少なかれ関連する」という考えに基づき広範なものとなっている。すなわち,神経症や七つの代表的疾患(神経性皮膚炎,関節リウマチ,気管支ぜんそく,本態性高血圧症,消化性潰瘍,潰瘍性大腸炎,甲状腺機能亢進症)を中心とした心身症にとどまらず,感染症,免疫症,さらに悪性腫瘍などもその対象となり,さらに慢性疾患やICU(intensive care unit),CCU(coronary-care unit),やけどなどの救急処置を必要とする場(burn unit)や,人工透析,臓器移植,死に瀕している患者の医療においても重要な意味をもつことが指摘されている。

【代表的なストレス反応研究】
・キャノン (アメリカの生理学者)の研究 「交感神経副腎髄質系」
平常時では副交感神経系が優位であるが,生体が何か重大な刺激にさらされると交感神経が優位になり,視床下部からの情報に基づいて交感神経が興奮すると,その末端や副腎髄質(副腎髄質の細胞は発生学上,交感神経細胞と同じ)から血中にノルアドレナリンが放出される。このとき生体には,立毛,発汗,心拍・血圧の増加,瞳孔の散大,内臓血管の収縮,骨格筋への血流量の増大などの反応が生じ,キャノンはこの反応を,闘争あるいは逃走するための身体の準備状態として捉えた(緊急反応)。これに対して副交感神経の末端からはアセチルコリンが放出され,エネルギー消費を抑制する反応を起こす。これらの自律神経は主に脊髄にある細胞体から軸索を伸ばしているが,その制御は,さらに上位の中枢である脳が行っているため,ストレス刺激にさらされると脳がこれを感知し,すばやく反応を起こすことが特徴である。すなわち恐れや怒りなどの情動を引き起こす刺激は感覚器から視床を経由して大脳皮質に達し,ここで選択された刺激が視床の抑制を解除する。さらに,視床は大脳皮質に信号を発して恐れなどの情動を体験させ,同時に内臓にも信号を出して心臓の鼓動の高まりなどの生理的反応を引き起こすという過程が考えられている。情動体験における中枢の機能を重視するため中枢起源説とよばれることもある(キャノン・バード説)。

・セリエ (ウィーン生まれ,カナダの内分泌学者)の研究 「下垂体副腎皮質系」
ホルモンと呼ばれる化学物質を介する情報伝達を通じて起こる反応系で、比較的ゆっくりとした長期的な変化をもたらすストレス反応である。副腎皮質部位からもコルチゾールやコルチコステロンなどの副腎皮質ホルモンを放出しているが、髄質のように交感神経系の支配を受けるのではなく、下垂体から放出される副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)によって制御される。さらにACTHの放出は視床下部から放出される副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)によって調節される。したがってストレス刺激にさらされると視床下部からCRHが放出されるので、下垂体からACTHが放出され、血流にのって副腎まで運ばれ皮質から副腎皮質ホルモンが放出される。このホルモンは抗炎症作用を持っているステロイドホルモンで、炎症やアレルギーを抑え、組織へエネルギーの供給を行い(脂肪組織にエネルギーが蓄えられるので肥満の一因となる)、またカテコールアミンの作用を増強させて心臓の収縮力や血圧を高め、胃酸の分泌を増加させる(胃壁を胃酸から守るには食物を入れておくことになるので,結果として食欲が増進する)作用があり、血糖レベルを高め、免疫機能の低下や不妊をもたらす。また、このホルモンは、過剰なストレスにより多量に分泌された場合、脳の海馬を萎縮させることが、近年心的外傷後ストレス障害(PTSD)患者の脳のMRIなどを例として観察されている。海馬は記憶形態に深く関わり、これらの患者の生化学的後遺症のひとつとされている。扁桃体と海馬は大脳皮質から感覚情報を収束している領域で、大脳皮質由来の高次の処理に基づいて情動発現や記憶形成に関わっている。心理的ストレスを長期間受け続けるとコルチゾールの分泌により、海馬の神経細胞が破壊され、海馬が萎縮する。ストレスによる過剰な視床下部刺激は、神経伝達障害や海馬の神経細胞新生の抑制などの脳機能障害をもたらし、うつ病に至るとされている。さらにCRHが下垂体に作用する際に、プロオピオメラノコルチン(POMC)という前駆体からACTHが分離されることが知られている。前駆体とはACTHなどの素材となる化合物のことで、たくさんのアミノ酸がペプチド結合によって連なったたんぱく質であり、この前駆体が適当な大きさに切断され,様々なホルモンが作られている。このPOMCは,痛みを和らげたり恍惚感をもたらす脳内麻薬物質の1つであるβ-エンドルフィンの前駆体でもある。すなわち,ストレス刺激に対する反応の1つとして、ストレスに対する辛さを和らげる脳内麻薬物質を生産しているということであり、生体機能の巧妙さを物語っていると考えられる。

生体的ストレス反応
肩こり・腰痛・背部の凝り,痛み・不眠・睡眠過多・食欲不振・食べすぎ・飲みすぎ・疲れやすい・胃炎・むねやけ・下痢・便秘・頭痛・頭重感・高血圧・動悸・不整脈・息切れ・過呼吸・アレルギー・微熱・手足の冷え・顔ののぼせ…
心理的ストレス反応
不安感・緊張感・イライラする・怒りっぽい・落ち込む・やる気が出ない・投げやり・無気力・集中力不足・悲観的否定的思考・他人や自分を責める・楽しめない・ひきこもる・その他…

精神医学領域での研究では,ストレスがNK細胞(腫瘍細胞やウイルス感染細胞の拒絶に重要な細胞)の活性を低下させ,リラクセーション法や心理的サポートなどによるストレスマネジメントが免疫機能を高めるという報告があります。

精神的なストレスによる免疫への影響
精神的ストレスによって交感神経が緊張するとアドレナリンやノルアドレナリンが,また副腎皮質からはステロイドホルモンが放出されることにより,胸腺が萎縮して免疫が抑制されます.胸腺は心臓の前にある臓器で,リンパ球の免疫である抗原抗体反応の抗原を認識するT細胞に対して認識能力を教育する器官であり,抗原抗体反応で抗体を作るほうのリンパ球がB細胞です.すなわち教育器官である胸腺の萎縮は教え子であるT細胞の認識不能を起こして免疫を抑制するので免疫力が低下し病気にかかりやすくなります.またリンパ球には胸腺由来以外のものとして,腸管に由来するNK細胞と胸腺外分化T細胞があり,主にガン細胞などを攻撃する能力を持っています.ストレスによってこの腸管の働きが抑制されるとNK細胞や胸腺外分化T細胞もストレスで抑制されてしまいます.
このようなリンパ球の全体的な抑制は,悩み事を抱えているときに免疫が抑制されることになり病気にかかりやすくなります.これらはストレス自体が強力である為に許容範囲を超えてしまって,なるべくしてなった状況であり,その人がストレスに弱いということにはならないでしょう.現代のストレス社会に生きる私たちにおいて状況しだいで誰にでも起きることなのです.
末梢神経の中には身体の各部を自分の意思で動かす体性神経と,自分の意思では操作できない心臓や消化器官などの内臓を動かしている自律神経があります.自分の意思では動かせない自律神経の崩れこそ体調不良の正体であります.病気とは自律神経が異常をきたすことであり,自律神経についてを知ることはストレスについて知ることになり,ストレスを知りコントロールすることは体調を崩さない最短の方法になるのです.睡眠をとっても疲れが抜けない,不眠状態が続く,交感神経の緊張は血管の収縮であるので頭痛と肩こりが重くなるといった一般的な体調不良,あるいは高血圧や脳梗塞,アレルギー疾患やガンなどの病気の発症は,おおむね強いストレスの攻撃で崩れた自律神経のサインなのです.
どう生きてもストレスを完全に排除することは出来ないものなので,ストレスを受けても振り回されない方法を知っておくべきであり,ストレスに気づき自分なりの対処法を準備しておくことで,体調を崩すことも少なくなると考えられます.またストレスが特定の病気に結びつくのは,その人の考え方や生き方が深く関係していると考えられます.

【人間は状況の捉え方によって感情や行動や生理反応が起こる】

【ストレス(stress)の定義と歴史】
心身の適応能力に課せられる要求(demand),およびその要求によって引き起こされる心身の緊張状態を包括的に表す概念である。前者をストレッサー(stressor),後者をストレス反応(stress response)またはストレイン(strain)とよぶことが多い。生理心理学では,交感神経系が興奮し,心拍数増加,血圧上昇,呼吸数増加,末梢皮膚温低下,筋の震え,瞬目(まばたき)数増加,瞳孔散大,唾液量減少などの症状が一過性に現われる状態を「ストレス状態」と呼び,このような生体反応と同期して現われる心理反応(不安,うつ,混乱,怒り,その他)および行動(回避,乱暴,暴力その他)などを総じて「ストレス反応」と呼ぶ。また,このようなストレス反応を引き起こす原因を「ストレッサー」と呼ぶ。
ストレスとは,もともと「圧力」「圧迫」や「苦悩」などを意味する言葉であったが,1930年代後半にカナダの生理学者セリエによって,「外界のあらゆる要求によってもたらされる身体の非特異的反応」を表す概念として提唱された。彼のストレス学説(Selye, H.1976)によれば,生体に与えられた有害刺激は,副腎皮質の肥大,胸腺・脾臓・リンパ節の萎縮,胃と十二指腸など消化管の出血や潰瘍に代表されるような,さまざまな刺激に対して共通の(非特異的な)生理学的変化を引き起こし,ストレスとはそれが生じている状態をさすものと考えられている。このような変化は汎適応症候群とよばれており,これは時間とともに以下の3相を経て進行する。
(1)警告反応期(stage of alarm reaction):ストレッサーが加えられた直後に一時的に身体の抵抗力が低下するショック相と,それに対する防衛反応として抵抗力が高まり始める反ショック相からなり,ストレッサーに抵抗するための準備態勢が整えられる。
(2)抵抗期(stage of resistance):ストレッサーに対する抵抗力が正常時を上回って増加し,維持される時期である。
(3)疲憊(ひはい)期(stage of exhaustion):さらにストレッサーが持続すると,抵抗力は再び低下し,生体はもはやストレッサーに耐えられなくなって,さまざまな適応障害が生じる。
1960年代後半になると,生活環境の変化や生活上の出来事と心身の疾患との関連性について検討した生活ストレス(life stress)研究を契機として,ストレスに関わる心理社会的要因を明らかにしようとする研究が盛んに行われるようになった。ホームズとレイ(Holmes, T. H.& Rahe, R. H.1967)は,生活上の重大な出来事(stressful life event)によって引き起こされた生活様式の変化に再適応するまでの労力が心身の健康状態に影響を及ぼすという考え方に基づいて,社会的再適応評定尺度(social readjustment rating scale)を作成し,個人のストレス・レベルを測定しようとした。この尺度は,生活上何らかの変化をもたらす出来事が記述された43の項目からなり,各項目には出来事の重大さに応じて重みづけ得点(life change unit ; LCU)が与えられている。過去1年間のLCUの合計が一定の基準を超えると心身疾患に罹患する可能性が高まることが報告されているが,出来事の重大さの評価の個人差が反映されていないこと,LCUと心身疾患との間に必ずしも高い相関が認められないことなどの問題点も指摘されている。
これに対して,ラザラスとフォルクマン(Lazarus, R. S. & Folkman, S.1984)は,環境からの要求に対する認知的評価(cognitive appraisal)やコーピング(適切な対処法)という個人的変数を導入し,環境と個人との相互作用を強調する心理的ストレス・モデルを提唱した。個人が環境からの要求に直面した場合,それがその個人にとって重要な関わりをもち,害や脅威,対処努力をもたらすものであると評価されると(一次的評価),ネガティブな情動(抑うつ,不安,怒り,いらいらなど)が喚起される。また,その要求をコントロールできるか否かの評価(二次的評価)が情動の種類や強度を規定する。すなわち,環境からの要求そのものが直接ストレス反応を引き起こすのではなく,要求の有害性やコントロール不可能性の評価がなされることによってはじめてその要求はストレッサーとなり,情動的ストレス反応を引き起こすものとなるのである。こうした評価を経て喚起された情動的反応は,それを低減することを目的とした行動を動機づける。そのようなあらゆる行動はコーピングとよばれている。コーピングが環境からの要求に対する有害性の評価を低減するように作用すればストレス状態は緩和されるが,そうでない場合にはストレス状態は慢性的に持続して,生理的ストレス反応や認知・行動的ストレス反応をもたらし,心身の健康を損なう可能性を高めるのである。このような考え方は,心理的ストレス研究に大きな影響を及ぼし,現在では最も広く受け入れられているものとなっている。
【感情(feeling)は情感的あるいは情緒的な面を表す総称的な用語であり,特に一時的であって比較的激しい感情が情動(emotion)であり,ある時間持続する感情が気分(mood)とされている。】

健康を脅かすネガティブな情動への対処法
情動(emotion)とは,感情の動的側面が強調される場合に用いられてきた用語であり,急激に生起し,短時間で終結する反応振幅の大きい一過性の感情状態また感情体験です.情動の機能は扁桃体の活動とそれを制御する前頭前野やセロトニン受容体などのバランスにより,情動の機能は適切に保たれるが,このバランスが崩れてしまうと情動制御がうまく出来なくなり,過大あるいは過小な情動反応が生じるため,社会に適応して生活することが難しくなります.海外の研究では情動制御が不得手な人は心臓病,糖尿病,ぜんそくなどの身体疾患にかかるリスクが高く,死亡率も高いことが指摘されています.これは情動制御がうまくいかないと情動に伴う身体反応が過剰に起こり(すなわち交感神経の緊張),身体に負担をかけるためであり,情動を適切に制御することは,健康を維持する上できわめて重要です.このような心身の病理は脳機能にその原因があるからといって決して認知症のような非可逆的なわけではなく,治療的介入や訓練によって脳機能を調整し,病理的な状態を改善していくことが可能であることが示唆されています.
情動の制御には前頭前野がさまざまな形で関与していて,情動が扁桃体システムを中心とした自動的な過程であれば,それが沸き起こってくることを意図的に制御することは不可能であるでしょう.となると,自動的に発生する情動に気づき,それを理解した上で必要な場合は制御を試みるというのが妥当な対応になると考えられます.情動に気づき,理解し,制御を試みるというのは,まさに認知行動療法の中心的アプローチであり,最近の諸研究では認知行動療法が奏効する過程における生物学的機序として,クライエントの前頭前野の機能がまず向上することが確認されつつあります.認知行動療法とは前頭前野のトレーニングでもあるとも言われ,科学的に説明が出来る生物学的な現象として解明されています.

認知行動療法
認知行動療法は基礎心理学を土台にしたEvidence-Based な治療法であり,うつ病性障害・不安障害・パニック障害などの疾患に適用されていることで知られ,現在では心理療法の世界標準となっています。最近では,例えば腰痛や坐骨神経痛などの原因として,椎間板ヘルニアなどの生物学的な要素よりも,ストレスなど心理的な要因が関係する場合も多いと考えられ,その対処法として認知行動療法が有効であると考えられています。
認知行動療法の理念として,クライアントとセラピストが現実的問題解決のためのチームを組み,障害のメカニズムや対処法について話し合う双方向的な「協同的問題解決」を重視しています。

認知行動療法の共通基本仮説
①外的な刺激と,それをどのように解釈するかという認知によって,情動や行動が決定される。
②人間は外的刺激の評価と今後の予測といった認知を変えることで,自分の情動や行動をコントロールできる。
③どのように刺激を捉え,将来を予測するかという認知は,モニター可能で変容可能である。
④ネガティブで非現実的な思考が原因となり,問題となる各種症状が生じる。
⑤ネガティブで非現実的な思考を変えることにより,問題となる各種症状は軽減する。
認知行動療法では「今どのような認知や行動ををしているので,問題となる症状が引き起こされているのか」と考え,原因を過去経験に求める(この技法は成功確率がよくないため現在ではすたれています)のではなく,現在の認知や行動に求めることが特徴です。このためクライエントを不幸な過去の犠牲者という見方はしません。

認知行動療法の構成要素
・症状の形成と維持のメカニズムへの理解を深める(自己理解・問題解決のプランニング)
・不安や恐怖,興奮や生理的覚醒といった情動反応の沈静化のための対処法を身につける(情動コントロール・苦痛の緩和とセルフコントロール能力の回復)
・習慣化している不適切な行動様式を改善し,状況に即した行動を身につける(行動コントロール・問題解決のためのスキルの拡充)
・ものの受けとめ方や予測,判断,思いこみや信念などの思考・認知過程を改善・修正する(認知コントロール・問題の背景にある自己の脆弱性…マイナス思考の改善)

基本的発想として, 具体的な問題を解決するための(悪循環を断ち,苦痛の緩和を得られる)方法を考えてゆく.楽観性を重視するのではなく,状況に即した柔軟性や多様性を身につけ,「考える」「探す」「気づく」「見つける」ことを積極的に賞賛しそのような試みを育てていくことがあげられる.

認知行動療法に含まれる代表的技法

Ellis・論理情動行動療法(1962)…出来事が結果を生むのではなく,その人の持つ信念(belief)が不合理なものであると不適応を生み出すという考え方から,その不合理な信念を認知,感情,行動の面から介入・論駁していくことにより合理的な信念に変容させる技法。合理的な信念とは「短期的にも長期的にもあまり損をしないで済む信念」という意味です。

Beck・うつ病の認知療法(1963)…うつ病患者には体系的な推論の誤りがあることを指摘し、1964年には,うつ病患者の認知の根底に独特の信念や構造があることを指摘して,これをスキーマ(外的な刺激の評価基準)と名付けました。そして治療において重要なのはスキーマや認知を変えることであると指摘しました。
ネガティブなライフイベントに遭遇したときに,極端な形で一般化してレッテルを貼ってしまう「体系的な推論の誤り」をおかしてしまうと、否定的な自動思考を生んでしまいます。この自動思考(外的な刺激の評価結果)が過剰で不適切な不安や抑うつなどの気分を引き起こし,徐々に不眠や気力減退などの各種身体症状につながっていきます。

【慢性腰痛における認知行動療法アプローチ】
例えば初エピソードのギックリ腰(強烈な腰痛)が起きる→その痛みが強烈であったので痛みに対する恐怖感を持つ→そのため痛みへの予期不安が発生するため痛みが再発しそうな活動を回避し,通常の生活が出来なくなり不自由になる→活動しないことによって衰弱するので身体機能が低下して再び腰痛が発生し,繰り返すようになります.このように日常生活の質(QOL)が悪化すると,自己効力感が低下し,痛みを感じる度にネガティブな自動思考が繰り返されて,抑うつ状態になります.以上のような痛みに対する恐怖回避行動が慢性腰痛の要因となり,この場合,痛みの緩和のみに重点を置いた処置であれば,回避行動が促進され,結果として身体および心理的な機能低下が確実になると考えられます.
このケースにおける認知行動療法的プログラムとして
・認知の再構成…「自分の痛み(腰痛)の問題は,どうしようもないのではなく自分でうまく扱えるものであり,誰か他の人に何かをしてもらうことを待つのではなく,自身の能動的なマネジメントが必要である」ということを再概念化します.また不安の緩和として痛み(身体感覚)に対する破滅的な自動思考(悪化してこのまま治らないのではないか等)に対して,認知の幅を広げ柔軟性を高めていきます.
近年では腰痛や坐骨神経痛などの筋骨格系の痛みは、椎間板ヘルニア,すべり症,脊柱管狭窄症などに代表される構造的な異常によるものではなく、生理機能あるいは自律神経の異常と考えられています.(ただし悪性腫瘍,感染症,骨折などの明らかな外傷は除きます.)その根拠として,感じている痛みの程度とレントゲンやMRIなどの画像所見とが一致しない(相関関係が低い)のです.21世紀にはいって,痛みやしびれは心身相関の観点からも捉えるべきと考えられています.不安や怒り,抑うつは筋肉を緊張させるため痛みやしびれの原因になり,また慢性化・習慣化してしまうことがあります.
・問題解決法…症状の形成と維持のメカニズムの理解,さらに腰痛の原因と考えられる生活習慣および生体力学理論の見地に立った「リコンディショニング」を目的とするエクササイズの理解とホームワーク(自ら実行して検証していただきます)
・その他,ストレスマネージメントなど
認知行動療法は,ひとつに特定できる介入法ではなく,一連の介入戦略であるのでその方法は多様な形となります.

【パニック障害における認知行動療法的アプローチ】
一般に不安障害をお持ちの方々は 身体的な筋緊張が高い傾向にあり,特にパニック発作時は 体内に乳酸などの疲労物質が増加した状態で,不安緊張が高まり過呼吸になるため,身体的リラクセーションが大切になります.また最初のパニック発作は,何らかの大きなストレス体験の後に発生する場合が多いと考えられるので ストレスマネジメントも必要になるでしょう.
パニック発作は強烈な記憶として残るため,発作をネガティブに捉えるようになります.その結果 自己効力感の低下や回避行動が起きるため,抑うつ状態へと移行し,それが慢性化するとパニック障害に発展します.したがって パニック発作時における身体感覚に対する自動思考を修正することが重要になります.
パニック障害など恐怖症や不安障害は,筋弛緩(筋肉がほぐれること)によって改善され,心身症の方々に対しても多くの研究から治療効果を持つことが実証されています.すなわち筋弛緩は不安・恐怖を抑制する拮抗作用の働きがあります.
当研究所のリラクセーション技法を用いた受動的漸進的弛緩法(整体療法)は,凝りのある筋・筋膜をほぐしながらクライアントの努力を伴わず,受動的に心身をリラックスすることが可能であり,疲労物質の分解を促し姿勢を矯正します.また認知行動療法(心理療法・メンタルケア)により恐怖や不安感を抑制して再発を予防します.

心理療法やカウンセリングでは自分への気づき(自己洞察の深まり)が重視されます。いたずらに自己の理想像を追い求めるより,現実の自己をしっかりと見極めて,それにふさわしい理想像を設定することが出来るようになれば,適応的な生活が営めると考えられます。
しかし,自意識過剰な人や,自意識が過剰になりがちな青年期の方たちなどでは,自分の「ぐうたらぶり」に我慢ならなくなって自己嫌悪に陥ってしまったり,宗教や薬物や過酷な鍛錬によって「完璧人間」への道にのめり込んだりすることもあり,いずれも人間の実相(実際のありさま)を慈しむ心が欠けている点で問題があります。人間の実相にしっかりと目を向けた上での自己評価や努力でないと,全体としては失うものの方が多いという結果になりかねません。

【参考文献】
中島義明・安藤清志・子安増生・坂野雄二・繁桝算男・立花政夫・箱田裕司(編):心理学辞典 有斐閣
古川聡・川崎勝義・福田幸男:生理心理学入門 川島書店
安保徹:最強の免疫学 永岡書店
福井至:認知行動療法・実践カード 総合マニュアル こころネット(株)
丹野義彦・利島保(編):医療心理学を学ぶ人のために 世界思想社
坂本真士・杉山崇・伊藤絵美(編):臨床に活かす基礎心理学 東京大学出版会
海保博之・田辺文也:ヒューマンエラー 誤りからみる人と社会の深層 新曜社
日本メディカルハーブ協会会報誌 第15号
金子晴勇(編):人間学 創文社
筋骨格系の痛み http://www.tvk.ne.jp/~junkamo/new_page_181.htm#
日本心理学会 認定心理士

※整体療法の概念※
整体施術(整体カイロプラクティック式マッサージ・脊柱骨盤矯正)により、皮膚や筋・筋膜などの軟部組織に対して体性感覚刺激を加えると、軸索反射および骨格筋ポンプ作用により表層血管が拡張され、骨格筋の血流や組織酸欠を改善し、身体の筋緊張(tonus)の緩和、末梢からの中枢への求心性インパルスの減少を促進します。その結果、中枢神経系の過剰興奮を鎮静し、脳幹部の機能を調整して、神経・体液軸を向ホメオスタシス状態(pro-homeostatic state)へと変換させ、生理的な機能回復が可能になります。したがって心身の状態は「緊張から弛緩へ」、「興奮から鎮静へ」、「消耗から蓄積へ」と自然に切り替わり、肉体疲労・精神疲労により体内に蓄積された疲労物質の分解を促進し、心理生理的変化の結果として症状緩和を得ることができます。筋・筋膜の凝りや痛み等の不快感・関節の機能不全など筋骨格系の障害や、身体的な緊張は脊髄レベルにとどまらず脳幹、自律神経機能や情緒行動にかかわる間脳、大脳辺縁系にまで影響を及ぼしていることが推察できます。施術による皮膚や筋・筋膜への刺激は、体性感覚神経の上行路から伸びる側枝を通って、脳幹内にある濃密度にニューロン群が存在しているところ(脳幹網様体)を賦活させ、そこから前頭前皮質などの大脳皮質の広い範囲にわたって信号が投射されるため可塑性や覚醒水準が高まります.また脳幹は全身の筋緊張(tonus)をコントロールしているので人体力学的な余裕と安定が生じ、施術後「身体がスッキリして動きやすくなった」という感覚になります。先行研究において体性感覚神経と自律神経系が連絡していることは証明されており、大脳を目覚めさせるのと同時に自律神経系の活動にも刺激を及ぼし、日常生活における様々なストレッサーによって交感神経優位に傾いた心身のストレス状態を改善させ、生理学的リラクゼーション反応へと導きます。


【新御堂筋整体・新大阪】肩こり腰痛研究所